構造設計雑記帳

                                                         
ここ10年来、私の高齢化に伴って総合設計から構造設計1本に特化して仕事を請けております、
半世紀以上、構造設計も手掛けておりましたので
この経験を生かして、多少とも業界に貢献出来た
ならと思っています。

最近、耐震性能のお問い合わせを頂く事が多いです、以下構造別耐震性について私見です

木造:

木造在来工法の場合は、単純に、耐震等級1〜3で区分され、地震時、標準剪断力係数、
Coの値を0.2〜0.25〜0.30(各等級1〜3)に変えて検討されます、当然等級
3がより耐震性が高い建物となります、

等級1は建屋に損壊があっても命を守れる程度、建屋は使えないかもですが、等級3は建屋は
一部損壊しても修復可能な程度と言われています、私の方ではほぼ等級3での設計が多いです、
1と3では驚くほどの耐力壁の増加は無いです、最近は7倍越えの高耐力壁も採用出来ますし、
折角構造計算を行うならば3がお勧めです。

当方でお請けしている物件の多くは4号物(1〜2階)ですが、3階以上もOKです、
設計ルートは一般には(1)です、軒高9mを越えると(2)/(3)になります、木造の
保有耐力計算は、壁性能による種別が曖昧で、計算の信頼性は目下は低いです、匙加減で
どうにでもなりそうです(RC/Sの保耐計算も同様ですが)。

また Wallstat による、地震時崩壊シュミレーションも(下記の動画です)添付出来ます。

その他に当方では扱っていませんが2x4工法があります、これはRCの壁式構造(WRC)に
相当し耐力壁で囲まれた箱ですから同じく耐震性は高いです。

木造はプランの段階でほぼ壁位置が決まってしまいますので、計画段階での事前相談をお願い
します、最近は集成材が出来ましたのでスパン6m以上も問題ありません、但し耐力壁の
間隔はあまり離さぬようお願いします、何故なら平面剛性がNGになるからです。


S造:

S造はルート1−1,1−2,2、3の区分となります、3は高度な検討(保有耐力検討)が
加わります、ルート1は比較的小規模な延べ面積500平米以下の建屋対象で、Co=0.3です、
2はCO=0.2ですが、使用材料に制限がありかつ大地震時柱を先行降伏させない規定があり、
柱サイズが大きくなる傾向があります、

3は適判対象になりますが、自由な設計が可能ですので経済性では有利かと思います、ただ私が
思うにたかが+数十万円〜の鋼材量節約で命を失うなら、最初から強固な構造を選ぶべきだと
思います、安全性能は保険だと思って下さい。

経済性を考えるなら、屋根は軽い材料を選んで下さい(どの構造も)、トップヘビーにすると
当然部材は大きくなり、基礎にも負担がかかりコストアップとなります、例えば金属系屋根だと
10〜20kg/平米ですが、デッキ上コンクリートだと300kg/平米以上になります、10倍を
軽く越えます、屋根の押さえコンクリートなんて絶対止めて欲しいです。

お勧めはルート1又は2です、当方では1〜2の設計の場合も必ずルート3の保有耐力結果も合わせて
出力しています、昔は保有耐力計算はパソコン(PC)で数日掛かったりしましたが、今や高性能
PCの出現で数分以内で解析します、どのルートも基本計算時間は同じです。


RC造:

RC造はルート1、2−1、2−2、3の設計区分があります、S造同様(3)は高度な設計です、
他にWRC(壁構造)がありますがルート1相当です、RCでは2で解析するケースは少ないので
1又は3です、1は壁量が多い建屋で耐震的にも優れています。

当方ではRC建屋の実施比率は少ないです、今のRC解析は袖壁等でスリットを設けねば設計上
解析出来ない事が多くスリットだらけの設計が現状です、折角の耐震要素として効果がある壁を
あえてスリットで切ってしまうのは如何な物かといつも思って居ます、ですからRC構造は現状では
納得出来ない構造設計なのであえて避けております。

近い将来には壁を含めた構造物として素直に解析出来るソフト或いは基準が出来るかと予想はして
おります、既に基準書で壁を含めた設計法が出ていますが、未だ普及はしていません、本来は壁を
含めた剛性で解析して、壁を含めた断面で配筋設計をすべきですが、出来ないので、素の柱、梁の
配筋に納めている処に無理があるのです、設計出来なくなるので最終兵器「スリット」なのです。

RCは、なるべくスリットは設けないで設計ルート1かWRC構造がお勧めです。


地盤と基礎:

どの構造も共通ですが、上部構造が如何に強固でも、軟弱地盤に建築されればその
性能は発揮されません、私が阪神淡路大震災で現実に見せつけられた事実です、
同じ形状の建屋でも、地盤の悪い低地と、地盤の良い山地では全く被害状況が異なり
ます、地盤の悪かった我が家周辺は壊滅状態になりました。

敷地を選ぶ場合は地層から考えねば駄目です、私は建築時は必ずボーリング調査を
お勧めしていますが、残念ながらボーリング調査は住宅等では費用が掛かりますので
敬遠されがちです、でも近い将来、土地の売買には地盤資料を添付する時代が訪れる
と予想しています、調査費用は保険料だと思って実施して欲しいです、自分の敷地の
地層の成り立ちが解らないで建築する事はおかしいと思われませんか?

地盤の状況に応じた、基礎形式を慎重に選ばねば、構造設計の存在意義がありません、
間違い無く建屋以上に重要な耐震性を左右するファクターです。


最近の在来木造の耐震性シュミレーションソフト"Wallstat"による解析を掲載します、
フリーウェアーで下記にて配布されています。

http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/~nakagawa/




Wallstat V.4.04 による比較モデル、Kizukuri からデータ(CEDXM)転送しています

同一形状建物で、左手前は耐震等級(1)モデル、右奥は耐震等級(3)、地震波は熊本地震、
西原村役場0416、1倍です、これを見ると、施主は明らかに等級(3)を選ぶと思いますし、
1階をもう少し補強するとベターなのが明白です。

Wallstat:建築研究所、中川貴文氏開発のソフト、現、京大准教授、地震波は気象庁公開版